大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

水戸地方裁判所 昭和44年(行ウ)5号 判決 1976年4月22日

茨城県東茨城郡桂村阿波山八六三番地

原告

有限会社河内屋商店

右代表者代表取締役

塙美恵

右訴訟代理人弁護士

関藤次

同県水戸市北見町一番一七号

被告

水戸税務署長

藤咲卓三

右指定代理人

清野清

右指定代理人

西村昇

中山三雄

川俣一郎

入沢武雄

桜井卓哉

玉田勝也

山地章

右当事者間の昭和四四年(行ウ)第五号更正決定取消請求事件について、当裁判所は、つぎのとおり判決する。

主文

一、原告の請求のうち、左記の部分はいずれも訴を却下する。

(一)  原告の昭和三七年六月一日から同三八年五月三一日までの事業年度の法人税につき、被告が同四三年七月二七日行なつた更正処分のうち、課税所得金額七一万三二八七円、法人税額金二三万五三五〇円に関する部分の取消を求める部分

(二)  原告の昭和三八年六月一日から同三九年五月三一日までの事業年度の法人税につき、被告が同四三年七月二七日行なつた再更正処分のうち、課税所得金額金一四八万四九九八円、法人税額金四九万一〇円に関する部分の取消を求める部分

(三)  原告の昭和三九年六月一日から同四〇年五月三一日までの事業年度の法人税につき、被告が同四三年七月二七日行なつた更正処分のうち、課税所得金額金一〇二万二〇四七円、法人税額金三一万六八二〇円に関する部分の取消を求める部分

(四)  原告の昭和四〇年六月一日から同四一年五月三一日までの事業年度の法人税につき、被告が同四三年七月二七日行なつた更正処分のうち、課税所得金額金五万三三三三円、法人税額金一万六五二〇円に関する部分の取消を求める部分

(五)  原告の昭和四一年六月一日から同四二年五月三一日までの事業年度の法人税につき、被告が同四三年七月二七日行なつた更正処分のうち、課税所得金額金一六四万五八一円、法人税額金四五万九二〇〇円に関する部分の取消を求める部分

二、原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の求めた裁判

一、原告

(一)  被告が原告の昭和三七年六月一日から同四二年五月三一日までの各事業年度の法人税について、同四三年七月二七日付でした左記処分は、いずれもこれを取り消す。

(1) 昭和三七年六月一日から同三八年五月三一日までの事業年度(以下、第一事業年度と略称する。)の所得金額金二八六万八七一円、法人税額金一〇五万七六〇〇円とする更正処分および重加算税を金二四万六六〇〇円とする賦課決定処分

(2) 昭和三八年六月一日から同三九年五月三一日までの事業年度(以下、第二事業年度と略称する。)の所得金額金三〇五万九九二九円、法人税額金一〇八万八二〇〇円とする再更正処分および重加算税を金一七万九四〇〇円とする賦課決定処分

(3) 昭和三九年六月一日から同四〇年五月三一日までの事業年度(以下、第三事業年度と略称する。)の所得金額金一八四万九一四一円、法人税額金五九万七〇〇円とする更正処分および重加算税を金八万一九〇〇円とする賦課決定処分

(4) 昭和四〇年六月一日から同四一年五月三一日までの事業年度(以下、第四事業年度と略称する。)の所得金額金八九万四六〇七円、法人税額金二七万七一〇〇円とする更正処分および重加算税を金七万八〇〇〇円とする賦課決定処分

(5) 昭和四一年六月一日から同四二年五月三一日までの事業年度(以下、第五事業年度と略称する。)の所得金額金二二二万四三七六円、法人税額金五三万五三〇〇円とする更正処分および重加算税額を金四万八九〇〇円とする賦課決定処分

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者双方の主張

一、請求原因

(一)  原告は、度量衡、金物類、陶器類、食料品、荒物類、化粧品類の販売等を目的とし昭和二九年一月二二日設立された有限会社であるが、昭和三七年六月一日から同四二年五月三一日までの各事業年度の法人税について、つぎのとおり確定申告をした。

(1) 第一事業年度

所得金額金七一万三二八七円、法人税額金二三万五三五〇円

(2) 第二事業年度

所得金額金一一九万八八三円、法人税額金三九万二九六〇円

(3) 第三事業年度

所得金額金一〇二万二〇四七円、法人税額金三一万六八二〇円

(4) 第四事業年度

所得金額金五万三三三三円、法人税額金一万六五二〇円

(5) 第五事業年度

所得金額金一三二万八七二一円、法人税額金三七万一八〇〇円

(二)  ところが被告は昭和四三年七月二七日、第一事業年度分につき所得金額金二八六万八七一円、法人税額金一〇五万七六〇〇円との更正および重加算税金二四万六六〇〇円の賦課決定、第三事業年度分につき所得金額金一八四万九一四一円、法人税額金五九万七〇〇円との更正および重加算税金八万一九〇〇円の賦課決定、第四事業年度分につき所得金額金八九万四六〇七円、法人税額金二七万七一〇〇円との更正および重加算税金七万八〇〇〇円の賦課決定、第五事業年度分につき所得金額金二二二万四三七六円、法人税額金六二万二七〇〇円との更正および重加算税金五万三一〇〇円の賦課決定をそれぞれ行い、また第二事業年度分につき、昭和三九年一二月二五日所得金額金一四八万四九九八円、法人税額金四九万一〇円との更正および過少申告加算税金四八五〇円の賦課決定をし、ついで同四三年七月二七日所得金額金三〇五万九九二九円、法人税額金一〇八万八二〇〇円との再更正および重加算税金一七万九四〇〇円の賦課決定をし以上各処分の通知書はその都度原告に送達された。

(三)  原告は、以上の更正処分(ただし第二事業年度分については再更正処分)および賦課決定処分につき、昭和四三年八月二六日被告に対し異議申立をしたが、同年一一月二五日みぎ申立は棄却された。そこで原告は同年一二月一二日関東信越国税局長に対し審査請求をしたところ、昭和四四年四月二五日同国税局長は、第五事業年度の法人税に関する前示更正処分につき、所得金額金一九一万二五一六円、法人税額金五三万五三〇〇円を超える限度において取消し、あわせて重加算税の賦課決定についても金四万八九〇〇円を超える限度において取消す旨の裁決をしたが、その余についてはいずれも審査請求を棄却する旨の裁決をし、そのころ原告に対しその旨を通知した。

(四)  しかしながら、前示更正処分は、訴外塙進個人の預金を原告の課税所得と誤認した点において違法たるを免れないから、原告に対して行なつた前示各処分の取消を求める。

二、請求原因に対する認否および被告の主張

(一)  請求原因第一ないし第三項の事実を認める。

同第四項の事実を否認する。

(二)  原告は設立以来第五事業年度にいたるまでの間において売上金額の一部除外等によつて得た資金を株式会社常陽銀行石塚支店に定期預金として預け入れ、その結果、第一事業年度から第五事業年度までの間に別表(一)の一ないし五記載のとおり、架空人名義で簿外の定期預金を設けて所得金額の一部を隠蔽したうえ、前示のように確定申告をした。そこで被告は、原告の第一ないし第五事業年度の法人税につき、前説示のように、原告の課税所得金額、法人税額の更正(第二事業年度については第一次、第二次更正)を行ない、あわせてその税額に対し国税通則法第六八条により重加算税を賦課決定したものである。これを詳述すれば以下のとおりである。

(1) 第一事業年度について(別表(一)の一参照)

(イ) 収入金額の計上洩れ金一七七万五八八一円

株式会社常陽銀行石塚支店に預け入れられていた原告の昭和三七年六月一日現在の簿外預金在高金七〇一万三四一六円と昭和三八年五月三一日現在の簿外預金在高金九一六万一〇〇〇円との増差額のうち、第一事業年度中に新たに定期預金に預け入れられた金一七七万五八八一円に相当する金額を収入洩れとして益金に加算した。

(ロ) 受取利息の計上洩れ金三七万一七〇三円

昭和三七年六月一日現在の簿外預金に対して原告が同三八年五月三一日までの間にみぎ銀行から受けた利息金三七万一七〇三円を益金に加算した。

(2) 第二事業年度について(別表(一)の二参照)

(イ) 収入金額の計上洩れ金一二五万三六八二円

前示銀行に預け入れられていた原告の昭和三八年六月一日現在の簿外預金在高金九一六万一〇〇〇円と昭和三九年五月三一日現在の簿外預金在高金一〇九〇万四六一一円との増差額のうち、みぎ期間中に新たに定期預金等として預け入れられた金一二五万三六八二円に相当する金額を収入洩れとして益金に加算した。

(ロ) 受取利息の計上洩れ金四九万九二九円

昭和三八年六月一日現在の簿外預金に対して原告がみぎ銀行から同三九年五月三一日までの間に受けた利息金五一万七三四八円が受取利息計上洩れとなるところ、更正処分はそのうち金四九万九二九円を益金に加算した。

(ハ) 第一事業年度の事業税認定損金一六万九六八〇円

原告の第一事業年度における法人税額の更正処分に伴ない増加した所得金額に対する事業税額に相当する金一六万九六八〇円を損金に算入した。

(3) 第三事業年度について(別表(一)の三参照)

(イ) 収入金額の計上洩れ金四〇万九八四七円

前示銀行に預け入れられていた原告の昭和三九年六月一日現在の簿外預金在高金一〇九〇万四六一一円と同四〇年五月三一日現在の簿外預金在高金一一八七万四七九五円との増差額のうち、みぎ期間中に新たに定期預金等に預け入れられた金四〇万九八四七円に相当する金額を収入洩れとして益金に加算した。

(ロ) 受取利息の計上洩れ金五六万三三七円

昭和三九年六月一日現在の簿外預金に対して原告がみぎ銀行から同四〇年五月三一日までの間に受けた利息金五六万三三七円を益金に加算した。

(ハ) 第二事業年度の事業税認定損金一四万三〇九〇円

原告の第二事業年度における法人税額の更正処分に伴ない増加した所得金額に対する事業税額に相当する金一四万三〇九〇円を損金に算入した。

(4) 第四事業年度について(別表(一)の四参照)

(イ) 収入金額の計上洩れ金三〇万円

前示銀行に預け入れられていた原告の昭和四〇年六月一日現在の簿外預金在高金一一八七万四七九五円と同四一年五月三一日現在の簿外預金在高金一二七七万六一五九円との増差額のうち、みぎ期間中に新たに定期預金等に預け入れられた金三〇万円に相当する金額を収入洩れとして益金に加算した。

(ロ) 受取利息の計上洩れ金六〇万一三六四円

昭和四〇年六月一日現在の簿外預金に対して原告がみぎ銀行から同四一年五月三一日までの間に受けた利息金六〇万一三六四円を益金に加算した。

(ハ) 第三事業年度の事業税認定損金六万九〇円

原告の第三事業年度における法人税額の更正処分に伴ない増加した所得金額に対する事業税額に相当する金六万九〇円を損金に算入した。

(5) 第五事業年度について(別表(一)の五参照)

(イ) 受取利息の計上洩れ金六三万四二七五円

前示銀行に預け入れられていた原告の昭和四一年六月一日現在の簿外預金在高金一二七七万六一五九円に対して原告がみぎ銀行から同四二年五月三一日までの間に受けた利息金六三万四二七五円を益金に加算した。

(ロ) 第四事業年度の事業税認定損金五万四八〇円

原告の第四事業年度における法人税額の更正処分に伴ない増加した所得金額に対する事業税額に相当する金五万四八〇円を損金に算入した。

(三)  別表(一)の一ないし五起載の架空人名義の定期預金(以下、本件定期預金という。)は、前叙のように、原告が売上を除外して預け入れた簿外預金であつて原告に帰属するものであるが、このことは以下に述べる事実に照らしても明らかなところである。

1 株式会社常陽銀行石塚支店に塙進名義の普通預金口座(口座番号第一八八五号および第六九九六号)が設けてあるが、原告は売上代金の一部をみぎ預金口座に預け入れた。すなわち、被告が、原告の得意先である訴外霞浦砂利株式会社ほか三取引先について調査したところによると、みぎ訴外会社らが原告に支払つた金額はそれぞれ別表(二)記載のとおりであり、原告の売上代金にほかならないところ、それが塙進名義の前記普通預金口座に預け入れられている。またみぎに述べたような原告の経理状態からすれば、現金売りについても売上除外が常時行なわれていたと考えられる。

2 前示塙進名義の普通預金口座から本件定期預金に振り替えられたことが明らかな金額は別表(三)記載のとおりであるが、原告は売上げを除外して塙進名義の普通預金口座に預け入れたうえ、同口座から払戻を受けて、本件定期預金に預け入れているのである。

3 原告は、設立後間もない昭和三二年から、簿外売上代金と認められる金額を別表(四)記載のように、塙進名義の前示普通預金口座に預け入れていたのであつて、このことから原告が設立後継続して前述のような売上の除外を行なつてきたことが推認されるのである。

4 訴外塙進方の同居の親族は、同人夫婦のほか五名であるが、その家計についてみると、昭和三七年六月一日から同四〇年一二月三一日までの年別の収支の内容、金額は左記のとおりで、常に支出金額が収入金額を上廻つており、みぎ期間を通じて余裕はなかつた。

(1) 収入金額

<省略>

(2) 支出金額

<省略>

注一 昭和三七年は、六月一日から一二月三一日までの集計である。

注二 「営業所得」は、塙進が営んでいる酒類販売業の所得を指す。

三、被告の主張に対する原告の応答

(一)  被告主張の(二)の事実中、株式会社常陽銀行石塚支店に架空名義の本件定期預金がなされており、その明細が別表(一)の一ないし五記載のとおりであることを認め、(1)ないし(5)の事実を否認する。

同じく(三)の1ないし3の事実を否認する。

(二)  本件定期預金は訴外塙進に帰属するものである。すなわち塙進は、自ら営なむ酒類販売業の売上金のうち金五〇〇万円を昭和三四年二月ごろ訴外木村伝兵衛に貸付け、同年四月ごろ返済を受けたのであるが、該金員を逐時常陽銀行石塚支店に預金した。本件定期預金は以上の預金にほかならない。

第三、証拠

一、原告

(一)  甲第一、第二号証を提出。

(二)  証人塙進、同武石哲夫、同関山亨、同綿引貢三、同角田博の各証言、原告代表者本人尋問の結果を援用。

(三)  乙第九四号証の一ないし四、第九五号証の一ないし四一、第一一八号証の二ないし九、第一二四号証の一ないし七、第一四七号証の一ないし三、第一四八号証、第一五一、第一五二号証の成立は不知。第一一八号証の一〇のうち小倉文司作成部分の成立は認め、その余の部分の成立は不知。第九〇号証の一〇ないし三〇、第九一号証の一ないし一二、第一一九号証の一ないし三、第一二〇ないし第一二三号証、第一四〇ないし第一四六号証の各一、二は原本の存在および成立を認める。その余の乙号各証の成立を認める。

二、被告

(一)  乙第一ないし第二五号証、第二六号証の一、二、第二七ないし第五四号証、第五五号証の一、二、第五六ないし第六三号証、第六四号証の一、二、第六五ないし第八八号証、第八九号証の一、二、第九〇号証の一ないし三〇、第九一号号証の一ないし一二、第九二号証の一ないし一〇、第九三号証の一、二、第九四号証の一ないし四、第九五号証の一ないし四一、第九六ないし第一一四号証、第一一五号証の一ないし三〇、第一一六、第一一七号証、第一一八号証の一ないし一〇、第一一九号証の一ないし三、第一二〇ないし第一二三号証、第一二四号証の一ないし七、第一二五号証の一ないし三、第一二六号証の一、二、第一二七号証の一ないし三、第一二八号証の一ないし四、第一二九ないし第一三一号証、第一三二号証の一ないし三、第一三三ないし第一三九号証、第一四〇ないし第一四六号証の各一、二、第一四七号の一ないし三、第一四八ないし第一五二号証を提出。

(二)  証人川原井重勝、同鴨志田信義、同福山正衛、同坂本英雄の各証言を援用。

(三)  甲号各証の成立は不知。

理由

第一、最初に、本訴請求の適否につき、職権を以て検討を加える。

一、請求原因第一ないし第三項の事実については、当事者間に争いがない。

二、本訴請求は、いずれも増額更正(または再更正)処分の全部取消を求めるものであるが、後掲(一)、(三)および(四)の各更正処分に係る課税所得金額および法人税額のうち、原告の確定申告に係るみぎ各項記載の課税所得金額および法人税額については、該更正処分により原告の納税義務に何らの変動を及ぼすものではないのであるから、この部分につき前示更正処分の取消を求める法律上の利益がないことは明らかである。

三、また、後掲(二)の増額再更正に係る課税所得金額、法人税額のうち、課税所得金額金一四八万四九九八円、法人税額金四九万一〇円は増額更正に係るものであるから、前示再更正処分はみぎの限度において、原告の納税義務に何ら消長を来たすものではない。したがつてこの部分について再更正処分の取消を求める法律上の利益はない。

四、さらに後掲(五)の増額更正処分につき勘考すると、該更正に係る課税所得金額、法人税額のうち、(一)課税所得金額金一三二万八七二一円、法人税額金三七万一八〇〇円は原告の確定申告に係るものであるから、一に説示したところと同様の理由で訴の利益がないし、(二)課税所得金額金三一万一八六〇円、法人税額金八万七四〇〇円は関東信越国税局長の裁決によつて取消されたのであるから、この部分については取消訴訟の対象を欠くものといわなければならない。

五、さようなわけで、原告の本訴請求のうち、後掲の(一)ないし(五)の部分は、いずれも不適法というべきである。

(一)  第一事業年度の法人税につき行なつた更正処分のうち、課税所得金額金七一万三二八七円、法人税額金二三万五三五〇円に関する部分の取消を求める部分

(二)  第二事業年度の法人税につき行なつた再更正処分のうち、課税所得金額金一四八万四九九八円、法人税額金四九万一〇円に関する部分の取消を求める部分

(三)  第三事業年度の法人税につき行なつた更正処分のうち、所得金額金一〇二万二〇四七円、法人税額金三一万六八二〇円に関する部分の取消を求める部分

(四)  第四事業年度の法人税につき行なつた更正処分のうち、課税所得金額金五万三三三三円、法人税額金一万六五二〇円に関する部分の取消を求める部分

(五)  第五事業年度の法人税につき行なつた更正処分のうち、課税所得金額金一六四万五八一円、法人税額金四五万九二〇〇円に関する部分の取消を求める部分

第二、そこで、原告の本訴請求のうち、その余の部分の当否につき、以下検討を加える。

一、株式会社常陽銀行石塚支店に、別表(一)の一ないし五記載の本件定期預金が存在することは、当事者間に争いがない。

二、そこで、本件定期預金の帰属について、以下検討を加える。

(一)1  成立に争いのない乙第九〇号証の一一ないし一九および二一ないし二八同第九二号証の三ないし六および九同第九三号証の一同第九六ないし第一一四号証同第一一五号証の一同第一一六、第一一七号証同第一一九号証の一、二同第一二〇ないし第一二三号証、証人福山正衛の証言と同証言により成立を認める乙第九五号証の一ないし三、一九、二五ないし二九および三八同第九四号証の一ないし四、証人川原井重勝の証言と同証言により成立を認める乙第一一八号証の二ないし九および証人坂本英雄の証言と同証言により成立を認める乙第一二四号証の一ないし六を総合すると、原告が、別表(二)記載のように、霞浦砂利株式会社、株式会社倉持砂利店、有限会社井坂運送および常陸鉱発株式会社からそれぞれ支払を受けた売上代金が、訴外塙進名義の株式会社常陽銀行石塚支店普通預金口座(口座番号第一八八五号および第六九九六号)に振込まれていることが肯認でき、さらに以上の事実と弁論の全趣旨を総合すると、原告は現金売りについても売上の一部除外を行なうことを常としていたものと推認される。

2  前出乙第九〇号証の二五および二八成立に争いのない同第九〇号証の二九および三〇成立に争いのない乙第九一号証の二、三、七および一二と前認定事実を総合すれば、別表(三)の1、2、4、5および7ないし10記載の金額が、前示塙進名義の普通預金口座から本件定期預金に振替えられたことが肯認できる。

3  つぎに、昭和三七年六月一日から昭和四〇年一二月三一日までの期間における塙進方の家計収支の状況について検討を加える。

(1) 成立に争いのない乙第一二九ないし第一三一号証同第一三二号証の一ないし三同第一三三ないし第一三九号証、証人福山正衛の証言と同証言により成立を認める乙第一五一号証、証人川原井重勝の証言と同証言により成立を認める乙第一四七号証の一ないし三、証人坂本英雄の証言と同証言により成立を認める乙第一五二号証ならびに弁論の全趣旨を総合すると、前掲の期間における塙進方の年別収入金額は、「事実」欄の二(三)4(1)摘示のとおりであることが肯認できる(ただし、塙進の営なむ酒類販売業の所得金額のうち昭和三七年六月一日から同年一二月三一日までの分は、昭和三八年の営業所得を同年の売上金額で除して営業所得率(六・六パーセント)を求め、昭和三七年の売上金額にみぎ営業所得率を乗して同年の営業所得を求めたうえ、これに一二分の七を乗じて七カ月間の営業所得金額を算出した。)

(2) 前示乙第一二九ないし第一三一号証同第一三二号証の一ないし三同第一三三ないし第一三九号証成立に争いのない乙第一二五号証の一ないし三同第一二六号証の一、二同第一二七号証の一ないし三同第一二八号証の一ないし四同第一四〇ないし第一四六号証の各一、二同第一四九、第一五〇号証および証人川原井重勝の証言と同証言により成立を認める乙第一四八号証を総合すれば、昭和三七年六月一日から昭和四〇年一二月三一日までの間における塙進方の年別の支出金額は、前示年別の収入金額を概ね上廻つているものと推認することができる。

(二)  以上に認定した各事実と証人川原井重勝同鴨志田信義同福山正衛同坂本英雄の各証言を総合すると、本件定期預金は、原告が売上を除外して常陽銀行石塚支店に預け入れた簿外預金と認めるのが相当である。

(三)  原告は、本件定期預金は、塙進が、同人の営なむ酒類販売業の売上金のうち金五〇〇万円を昭和三四年二月ごろ訴外木村伝兵衛に貸付け、同年四月ごろ返済を受けたところ、この返済金を逐次常陽銀行石塚支店に預け入れたものである旨抗争するので、この点につき考えてみる。

1 証人塙進は、原告の設立前に、同証人が個人で営なんでいた食料品販売業による醤油の売上金の一部を現金のままで保管していたが、昭和三四年頃訴外木村伝兵衛の求めに応じ、みぎ現金のうちから金五〇〇万円を、二、三カ月後に返済を受ける約束で貸渡したところ、期日に返済を受けた旨証言し、原告代表者本人は、訴外木村伝兵衛に貸付けた金五〇〇万円の資金の大半は、塙進が昭和二一年の金融封鎖のまえに購入しておいたモーターをその後に処分して得た代金ならびに原告の設立前に同人が醤油を販売して得た代金を、現金のままで保管しておいたものの一部をもつて充てたものであり、しこうしてみぎの貸付金は数日後に返済を受けた旨供述し、さらに以上の売上代金を現金のまま保管していたのは、従前の取引銀行である常陽銀行との間の取引を一時停止したことがあつたためである旨供述する。他方、証人綿引貢三は、昭和三四年二月中旬同証人は、訴外木村伝兵衛の代理人として塙進方に赴き、みぎ木村の負債の返済資金として塙から金五〇〇万円を借受けたが、該金員は不要となつたため、翌日返済したものであり、甲第一号証は昭和四四年塙進の求めに応じ、作成名義人木村伝兵衛本人の意思に基づき代筆した旨証言する。

2 他方、(1)証人鴨志田信義の証言によれば、塙進が、関東信越国税局協議団水戸支部の協議官から参考人として事情聴取を受けた際、前示金五〇〇万円の資金の出所に関する供述を撤回した事実が肯認でき、(2)証人綿引貢三の証言によれば、前示甲第一号証(証明書)は、作成名義人本人の直筆によるものではなく、署名、捺印すら第三者によつて代行されている事実が認められるところ、さような証明書は作成名義人本人の自署のもとに作成することは一挙手一投足の労で事足りる筈であり、(3)原告が昭和二九年一月二二日設立されたことは当事者間に争いがないところ、証人塙進および原告代表者本人の前示各供述によれば、原告会社代表取締役塙美恵は金五〇〇万円またはこれに近い高額にのぼる現金を、昭和二九年以前から昭和三四年にいたるまで自宅または原告の営業所にそのまま保管していたこととなるが、さようなことは、吾人の経験則に照らし到底首肯しえないところであり、(4)以上のような大金を、数年間にわたり現金のままで保管した理由について、原告代表者本人は、前示のように、当時塙進は銀行取引を停止していたことによるものである旨供述するが、成立に争いのない乙第九〇号証の一ないし一〇によれば、塙進は株式会社常陽銀行石塚支店に普通預金口座(口座番号第一八八五号)を有し、昭和二五年から昭和三四年にいたるまでの間銀行と取引を継続していた事実が肯認できる。

3 しこうして、1に掲げた各証拠は、2に説示した諸点と総合検討するとき、(二)所掲の認定を覆えして、本件定期預金が塙進の個人営業によつて蓄積された預金である旨の原告の前示主張事実を肯認できる反証とはなしえないものと考える。

三、以上のようなわけで、本件定期預金すなわち別表(一)の一ないし五所掲の預金は、原告が売上代金の一部を除外して蓄積した簿外預金というべきであり、このことからつぎの事実が明らかになる。

(一)  第一事業年度

1 収入金額の計上洩れ 金一七七万五八八一円

2 受取利息の計上洩れ 金三七万一七〇三円

(二)  第二事業年度

1 収入金額の計上洩れ 金一二五万三六八二円

2 受取利息の計上洩れ 金五一万七三四八円

(三)  第三事業年度

1 収入金額の計上洩れ 金四〇万九八四七円

2 受取利息の計上洩れ 金五六万三三七円

(四)  第四事業年度

1 収入金額の計上洩れ 金三〇万円

2 受取利息の計上洩れ 金六〇万一三六四円

(五)  第五事業年度

受取利息の計上洩れ 金六三万四二七五円

四、したがつて、以上各事業年度における確定申告(ただし、第二事業年度については増額更正)に係る課税所得金額と更正(ただし、第二事業年度については再更正)に係る課税所得金額(ただし、第五事業年度については裁決により取消された部分を除く。)との増差額はつぎのとおりとなる。

(一)  第一事業年度

<省略>

(二)  第二事業年度

<省略>

(三)  第三事業年度

<省略>

(四)  第四事業年度

<省略>

(五)  第五事業年度

<省略>

<省略>

五、以上の理由により、原告の第一ないし第五事業年度の各法人税につき、被告が昭和四三年七月二七日行なつた更正処分(ただし、第二事業年度については再更正処分、第五事業年度については関東信越国税局長の裁決により取消された部分を除く。)には、原告の主張するような瑕疵は存在しない。

第三、よつて、原告の本訴請求のうち、第一の(一)ないし(五)所掲の部分は、いずれも訴を不適法として却下すべきであり、その余の部分は、失当として棄却すべきである。そこで訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石崎政男 裁判官 菅原敏彦 裁判官 小松平内)

別表(一)

一、

<省略>

<省略>

二、

<省略>

<省略>

三、

<省略>

四、

<省略>

五、

<省略>

別表(二)

<省略>

<省略>

別表(三)

<省略>

別表(四)

<省略>

<省略>

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例